千数百本のたいまつ行列や護摩壇の炎が放つ光と熱、白装束の行者の読経や吹き鳴らすほら貝の響き……。厳粛な中にも幻想的でダイナミックな伝統行事「お水送り」は3月2日、若狭神宮寺とその近くを流れる遠敷川(おにゅうがわ)のほとり・鵜の瀬(うのせ)で行われます。
1200年前から続く「約束」の伝統行事
3月2日、まだ雪が残る北陸・若狭の夜。遠敷川沿いの道を、ほら貝の鳴り響く中、赤々と燃えるたいまつの帯が進みます。行者姿で大きなたいまつを持った先頭集団に続き、なんと4000人にものぼる人々が、それぞれ手にたいまつを持って行列をなしていきます。
人々の目的地は鵜の瀬。「水師」と呼ばれる導師が、神宮寺の閼伽井(あかい;井戸)から汲んで祈祷し香水(こうずい)となった霊水を、鵜の瀬から遠敷川へと流します。
この「お水送り」、実は奈良東大寺二月堂の「お水取り」に欠かせない「お水=香水(こうずい)」を「送る」ための行事。そこには、1200年前から続く深い絆と「約束」がありました。
人々の目的地は鵜の瀬。「水師」と呼ばれる導師が、神宮寺の閼伽井(あかい;井戸)から汲んで祈祷し香水(こうずい)となった霊水を、鵜の瀬から遠敷川へと流します。
この「お水送り」、実は奈良東大寺二月堂の「お水取り」に欠かせない「お水=香水(こうずい)」を「送る」ための行事。そこには、1200年前から続く深い絆と「約束」がありました。
若狭の「お水」が東大寺の「お水取り」に使われる?
お水送りの神事の舞台「鵜の瀬」
鵜の瀬で流した「香水」は遠敷川の流れに乗り、地下水脈を通り、10日間かけて奈良・東大寺へ「送られる」と信じられています。3月12日、「お水取り」をする東大寺二月堂下の閼伽井屋(本尊に供える香水を汲み上げる井戸)が「若狭井」と呼ばれる由縁です。
二月堂の「お水取り」は有名ですが、若狭神宮寺の「お水送り」との密接な関係を知っている人は、少ないのではないでしょうか。その始まりは、現在は若狭姫神社に祀られている神様・遠敷明神(おにゅうみょうじん)にまつわる伝説と言われています。
二月堂の「お水取り」は有名ですが、若狭神宮寺の「お水送り」との密接な関係を知っている人は、少ないのではないでしょうか。その始まりは、現在は若狭姫神社に祀られている神様・遠敷明神(おにゅうみょうじん)にまつわる伝説と言われています。
修二会に感激した神様が、若狭の水を送る約束をする
遠敷明神は他の神様とともに、東大寺の二月堂で開かれる修二会(しゅにえ)に呼ばれていました。しかし魚取りに夢中になって、一人だけ遅刻してしまいます。
あと二日で終わるときにやってきた遠敷明神は、修二会の素晴らしさに感嘆し「これからは若狭の地から香水をお送りしましょう」と約束。二月堂の下まで水を導いた、というのです。
二月堂の「お水取り」が1200年続いているのも驚きですが、そのための「お水送り」も同じだけ続いているなんて、昔の人の「約束」の重さを感じずにはいられません。
あと二日で終わるときにやってきた遠敷明神は、修二会の素晴らしさに感嘆し「これからは若狭の地から香水をお送りしましょう」と約束。二月堂の下まで水を導いた、というのです。
二月堂の「お水取り」が1200年続いているのも驚きですが、そのための「お水送り」も同じだけ続いているなんて、昔の人の「約束」の重さを感じずにはいられません。
火と水のエネルギーで魂を揺さぶる
お水送りの日は、下根来八幡宮(しもねごりはちまんぐう)で執り行われる山八神事に始まり、神宮寺での弓打ち神事や達陀松明(だったんたいまつ)などさまざまな行事が進行。神事の中には非公開で行われるものもありますが、見学可能な「達陀松明」「大護摩法要」「送水神事」は、「火」と「水」が醸し出す豪快さ・華やかさがあり、寒さを忘れてしまいます。
とりわけ立派な神宮寺本殿の周りにある廊下を、大きなたいまつを持った行者「火天(かてん)」が走り回る達陀松明の光景は迫力満点! 境内で大きく火が焚かれる大護摩法要も、立ち上る火柱から発する熱を間近で感じられ、圧倒されます。
とりわけ立派な神宮寺本殿の周りにある廊下を、大きなたいまつを持った行者「火天(かてん)」が走り回る達陀松明の光景は迫力満点! 境内で大きく火が焚かれる大護摩法要も、立ち上る火柱から発する熱を間近で感じられ、圧倒されます。
このようにお水送りとは、新たな春を迎えるため清らかな水を汲み、邪気を火で払う神事なのです。
伝説を信じさせてくれる清らかな鵜の瀬の流れ
若狭と奈良が本当に地下水脈でつながっているのか、それはわかりません。それでも「お水送り」に立ち会うと、1200年続く「約束」の重みが感じられ、必ず東大寺まで届いていると信じられる気がします。
遠敷川の水は今も清く、付近には湧水も多く見られます。この環境も、1200年前の伝説を支える一因ではないでしょうか。
遠敷川の水は今も清く、付近には湧水も多く見られます。この環境も、1200年前の伝説を支える一因ではないでしょうか。
お水送りの地・鵜の瀬の水は「名水百選」にも選ばれていて、鵜の瀬橋近くの給水所から汲むことができます。「うのせ」のステッカーや、ステッカーがついたペットボトルも販売されています。
※衛生上、川から直接汲まず給水所からお取り下さい。
「お水送り」の聖地には、パワースポットがいっぱい!
若狭神宮寺は、近くにある若狭一宮若狭彦神社・若狭姫神社の神願寺であり、この三寺社は元々一体でした。若狭彦神社は遠敷神社ともいい、若狭姫神社は遠敷明神を祀った神社でもあります。若狭のパワースポットをゆっくり訪れてみませんか?
鎮守の森の深さに感動!「若狭彦神社」
若狭一宮の上宮(かみのみや)若狭彦神社。足を踏み入れた途端、鎮守の森の深さや、木々の太さ・高さ・大きさに「神域」の迫力を感じずにはいられません。自然を敬う気持ちが溢れてきて、本殿にたどり着く前から癒されます。
参道の左右にそびえ、二の鳥居とも考えられる二本の大木は、一本が未来、一本が過去を表しているとか。その間に立つのが現在の自分であり、「二本の巨杉の中央で空を見上げ、来し方を思い、行末を念じましょう」という看板がかかっています。
根元で繋がっている夫婦杉も有名なパワースポット。晴れた日の朝9時ごろには、夫婦杉の間を太陽が通過するそうです。
千年杉と静謐な空気「若狭姫神社」
「お水送り」を約束したという伝承に登場する遠敷明神を祀った若狭姫神社は、若狭一宮若狭彦神社の下宮(しものみや)でもあります。本殿までの参道は短いものの、境内に入った途端、静謐な空気に圧倒されます。
何より、本殿脇にそびえ立つ「千年杉」は、想像以上の大きさ。本殿と比べると、数倍の高さがあります。「乳神さま」と呼ばれる大イチョウも負けず劣らずの巨木で、こちらも思わず見上げてしまいます。
こぢんまりした神社ですが、この神聖な空間は、行ってみなければわからない魅力のあるパワースポットです。
こぢんまりした神社ですが、この神聖な空間は、行ってみなければわからない魅力のあるパワースポットです。
本殿に浮かび上がる金色の仏像「若狭神宮寺」
お水送りの神事が行われる若狭神宮寺。仄暗い本殿に足を踏み入れると、薬師如来を護るように十二神将が囲みます。仏像が蝋燭の光で金色に浮かび上がり、幻想的。我知らず姿勢を正したくなります。
※お水送り準備のため、2月15日から3月5日まで若狭神宮寺の拝観はできません。
※お水送り準備のため、2月15日から3月5日まで若狭神宮寺の拝観はできません。
悠久の歴史に思いをはせて
「お水送り」は春を呼ぶ火祭り。明るい未来を願う人々の強い祈りを感じます。それとともに、時を超えて「約束」を守り続ける尊さを感じる行事でもあります。自らたいまつを持って鵜の瀬まで行進するのは、悠久の歴史と一体になれる、得難い体験です。
若狭神宮寺
住所 | 福井県小浜市神宮寺30-4 |
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拝観時間 | 9:00~16:00 |
休館日 | 2月15日~3月5日 |
駐車場 | 有 |
交通アクセス | JR東小浜駅から車で約7分
舞鶴若狭自動車道 小浜ICから車で約10分
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料金 | 拝観料:500円 |
若狭彦神社
住所 | 福井県小浜市竜前28-7 |
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駐車場台数 | 5台 |
交通アクセス | JR東小浜駅から車で5分 |
若狭姫神社
住所 | 福井県小浜市遠敷65-41 |
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交通アクセス | JR東小浜駅から徒歩10分 |