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無病息災を「せんべい焼き」に込めて! 晩秋の火焚き祭りで邪気を追い払う

公開日:2024.11.01 / 更新日:2024.11.01

祭事
無病息災を「せんべい焼き」に込めて! 晩秋の火焚き祭りで邪気を追い払う

11月20日の夜、天満神社の境内では、大きなかがり火の上に、長い青竹が何本も掲げられます。その先には、生せんべい。御祈祷木を焚いた火に炙られた生せんべいを食せば、この1年は無病息災、そして悪病も払われていくと信じられ、約380年も続いている伝統行事です。秋の終わり、実り多かった1年に感謝し、また来年も元気に前進する力をいただくため、火焚神事に参加しませんか?

今回お話を伺ったのは……

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山本宗弘さん
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長年地元にお住まいで、毎年「せんべい焼き」の準備・運営を担う世話方のお一人です。

約380年続いている「せんべい焼き」とは?

せんべい焼きは、天満神社の中にある恵美須神社の祭礼です。祭神である「えびす様」のご神徳に感謝を捧げる行事「えびす講」に由来があると言われています。
天満神社

天満神社

えびす様は七福神の一人でもあり、右手に釣り竿、左手に鯛を抱えている姿から、漁師さんなど海や港で働く方が特に守神として大切にすることの多い神様。実は、天満神社の主神は菅原道真で、えびす様は本殿の脇に鎮座する「恵美須神社」に祀られています。
天満神社内にある恵美須神社

天満神社内にある恵美須神社

天満神社も少し歩けばすぐ海で、昭和の初めくらいまでは、神社の境内に網を掛けて干したり、修理したりしていたそうです。こうしたご縁から、地元の神様としてえびす様が境内の中に祀られたのではないかと思います。(山本さん)

「せんべい」を焼くのは、御祈祷木を“焼納”したかがり火

せんべい焼きはえびす講の一環なので、まずは神事として社に御神酒や魚、お米、塩などをお供えし、1年の無事を感謝して大漁と家内安全を祈願します。神事が終わると、たいまつに火をつけ、かがり火を燃やします。そのかがり火で、まずは祈祷木を燃やす。これを「焼納(しょうのう)」といいます。

祈祷木には名前、住まい、年齢を書きます。願い事を書くところはありませんが、みなさん気持ちを込めて書かれますね。そのご祈祷木を焼納する事により、災いや悪霊を祓っています。昔は祈祷木だけでなく、家々の神札や守り札も燃やしていました。(山本さん)

祈祷木
焼納により炎が大きくなり、そして火の勢いが収まってきたら、いよいよせんべい焼きの始まり!
せんべい焼きの様子
しめ縄を外し「皆さんお待ちどうさん、せんべいを焼いてください」の声を合図に、一斉にせんべいを焼き始めます。口々に「せんべい焼き、せんべい焼き!」と唱えながら焼きます。勢いよく燃える火ではなく、炭火のような火加減だとうまく焼けるとか。

竹で挟んであるところは焼けにくいので、少しずつ場所をずらして焼くのがコツです。(山本さん)

竹にせんべいを挟んでいる様子

青竹の先にせんべいを挟んで焼く

私が子どものころは雪がよく降って、寒い中を長靴で出かけたものです。親から「せんべい焼きに行っておいで、火にあたると風邪ひかないよ」と声かけられて。赤いほっぺで火に当たって、みかんをさして焼く人もいました。(山本さん)

せんべいを挟む細くて長い「青竹」は3メートル!

青竹に挟んだせんべいを高く掲げる様子
この細く長い竹を使うところこそ、せんべい焼きの特徴。長さは3メートルにも及びます。いったん火が収まってから焼き始めるとはいえ、やはり熱いので3メートルは必要なのでしょう。必ず3年ものの真竹を使うと決まっていて、2ヶ月前から準備を始め、毎回200本から300本を用意するとか。

竹林を所有している氏子さんが提供してくれます。かがり火を焚くときの丸太も、やはり提供してくださる方がいらっしゃいます。各人、えびす様への奉仕の心で自分のできることをして、この祭は成り立っています。(山本さん)

なぜ「おせんべい」を焼くの?

4種類のおせんべい
昔、庶民がなかなかお餅を食べられなかった時代、お供えしたお餅を薄く切り落として、みんなで分けたのが始まりなのではないかと言われています。

今でこそいつでも食べられるお餅ですが、私のような団塊の世代は、まだまだ「正月にお餅を食べられるようにがんばろう」と言っていた世代です。お餅はお祝いのときにしか食べない特別な食べ物でした。(山本さん)

地域によっては今も、家を建てたり船を作ったりしたときには、餅を投げて近所の人に福を分ける習慣がありますよね。お餅と一緒に笑顔や幸せを分かち合うお祭り。だから地元の方々に愛されて、約380年も続いているんですね。
せんべい焼きのせんべいは米粉でできていて、えび、白ごま、黒ごま、よもぎの4種類。「災難厄除 御神饌 天満神社」と書かれた袋に入れて売られています(800円、2023年当時)。

「お餅を薄く切り分けた」というのが由来なので、米粉であることが重要だそう。どの種類もほんのり塩味がついています。直径8センチ、厚さは2ミリほどですが、焼くと倍くらいの大きさに!

トースターや電子レンジで90秒くらい焼いてもおいしいので、残ったものを持ち帰り、家で召し上がる方も多いですよ。(山本さん)

「11月20日」にしかやらない理由

このあたりでえびす講といえば、11月20日。えびす様のお祭りですから、この日でないと意味がないんです。だから「せんべい焼き」も必ず11月20日に行うと決まっていて、天候によって延期することはありません。基本的には雨が降っても雪が降ってもこの日に行います。(山本さん)

2023年の11月20日は強風。そのため2023年のせんべい焼きは、防火上の危険から中止を余儀なくされました。必ず11月20日に行ってきた長い歴史の中でも、珍しいことだそうです。

それでも多くの人が神社を訪れ、「御神饌」であるおせんべいを買い、あるいは祈祷木に名前を書いて納めていきました。このお祭りが、地域の生活の中に溶け込んでいる証ですね。

地域を一つにする温かいお祭りよ、いつまでも!

せんべい焼きのお祭りがくると、寒さが厳しくなってそろそろ年末お正月。これで新しい年がくる、という思いを持っている人が地元の人には多いとか。

いつも会えない懐かしい顔と再会できるんですよ。他の地域に住んでいる家族にも「せんべい焼きのときには戻っておいで」と声をかけるきっかけになります。人と人をつなぐこの祭りを、子どもや孫の世代に残していきたいと思っています。(山本さん)

恵美須神社の「せんべい焼き」には、皆で支え合い、幸せを分かち合う優しい心がありました。

天満神社(境内内 恵美寿神社)

住所 福井県敦賀市栄新町1-6
交通アクセス 北陸自動車道 敦賀ICから車で約10分
JR敦賀駅より 「ぐるっと敦賀周遊バス」で約8分「金崎宮」停留所下車 徒歩5分
JR敦賀駅より タクシーで約8分
お問い合わせ先 敦賀観光協会  電話0770-22-8167
敦賀観光案内所  電話0770-21-8686
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